
2026年5月30日 講演会「ひとりで抱えない不登校〜わが子に寄り添うために〜」レポート(前編)
2026年5月30日、世田谷区教育委員会で学校支援アドバイザーを務めていらっしゃる橋本弘美先生による講演会「ひとりで抱えない不登校〜わが子に寄り添うために〜」が開催されました。
この記事では、当日の橋本先生のお話のまとめ(前編)をお届けいたします。
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みんなが同じ問いを抱えていた
橋本先生は、世田谷区の教育委員会で学校支援アドバイザーとして17年にわたり学校と家庭をつなぐ役割を担いながら、並行してクリニックでも保護者や子ども本人と個別に向き合ってきた臨床心理士です。学校という集団の場と、個別相談の場、両方に関わり続けているからこそ見えてくるものがあると先生はおっしゃっていました。
当日、参加者の方々から事前に寄せられた質問は20件以上。小学校低学年のお子さんをお持ちの方から、大学生になるお子さんと関わっている方まで、年齢も状況もさまざまでした。それなのに、問いの根っこは驚くほど似ていたと先生は言います。「見守ったほうがいいとはわかっている。でも本当に見守るだけでいいの?」「子どもの気持ちがわからない。どう受け止めたらいいんだろう」「自分のイライラや不安な気持ち、どうしたらいいんだろう」——こうした声が、年齢を超えて共通していたのです。
子どもをどう理解してどう受け止めたらいいか。そして、子どもに向き合う自分の心をどう保ったらいいか。この講演では、その両方について、先生がこれまでの経験をもとに丁寧に語ってくださいました。
子どもが「なぜ行けないのか」を言えないのは、当然のこと
不登校のお子さんを持つ保護者の方が、一度は直面するであろう場面があります。「どうして学校に行けないの?」と聞いても、子どもが何も答えてくれない、あるいは「わからない」とだけ言う。そんなとき、親はつい「話してくれない」「隠している」と感じてしまうことがあります。
しかし先生は、これは「答えない」のではなく「答えられない」のだとお話されています。小学生くらいの年齢では、「不安」や「葛藤」という感覚そのものがまだ発達していません。大人が「不安」と感じることを、子どもはお腹の痛みや発熱、体の症状として表現します。言葉で説明できないのは、ごまかしでも甘えでもなく、その年齢の子どもの自然なあり方なのです。
「先のこと」を考えると、今がずれていく
不登校のお子さんを持つ保護者が抱えるもうひとつの不安は、将来への心配です。「今はいいけど、ずっとこれでいいの?」——その気持ちは、大切なわが子だからこそ生まれる、ごく自然なものです。
でも先生は、こう指摘されました。「先を考えて今の対応を考えると、ずれます。子どもの思いとずれていく」と。将来を見据えるほど、「こうあってほしい」という願いが強くなる。その目線で今の子どもを見ようとすると、目の前のその子が「今伝えようとしていること」を受け取り損ねてしまいます。
子どもは、今の発達段階でしか物事を理解できません。6歳は6歳の、15歳は15歳の理解しかできない。どんなに言葉を尽くして伝えようとしても、その年齢の枠の中でしか届かない。これは子どもの限界ではなく、発達の仕組みそのものです。たとえば反抗期の中学生は、大人の言うことを否定することが発達課題のひとつ。「大人が正しいと言うことを全部否定するのが、反抗期の意味なんです」と先生はおっしゃっていました。
だからこそ、「今目の前のこの子が、何を伝えようとしているか」——そこに立ち返ることが、関わりの出発点になると先生は言います。
子どもの行動は、その子の「すべて」
先生が話してくださった、こんなエピソードが印象的でした。「これを買ってくれたら学校に行く」と言って、買ってもらったのに結局行けなかった。そんなとき、親はつい「約束を守れない子だ」「嘘をついた」と思ってしまいます。
でも先生の見方は違います。「買ってもらう前、その子は本当に『行こう』と思っていた。それも事実。でも当日になって行けなかった。それも事実。嘘をついたわけでも、ずるをしたわけでもない。それが子どもの本質なんです」と。
大人は過去にした約束を、辛くても守ることができます。それは、守るだけのエネルギーと成熟があるから。でも子どもにはそれがまだない。「目の前の子どもが示している行動は彼らのすべてです。嘘でもなんでもない。彼らが示している行動が自分だって、もうそれで教えてくれています」——この言葉は、多くの参加者の心に響いたようでした。
小学生と高校生では、親にできることの性質がガラッと変わります。年齢が低いほど、環境を整えることが力になると先生は言います。「一緒に学校まで行ってみる」「先生に玄関まで出てきてもらう」——そういうことの積み重ねが安心感を育て、少しずつ学校との距離を縮めることにつながります。
でも年齢が上がるにつれ、本人の中のエネルギーが必要になっていきます。環境の力と本人の力が交差するのが、ちょうど小学校高学年から中学生のあたり。そこを過ぎると、親ができることはだんだん「そばにいること」に絞られていく、と先生はおっしゃいます。「悩みを解決してあげるのではなく、悩んでいる子どものそばにいること。それがサポートになる」。「答えが出ない状態でも、ここに居ていい」という安心感を渡すことが、子どもにとって大きな支えになる場合があると、先生は語ります。
今回は、講演会での橋本弘美先生のお話のまとめ(前編)をお届けしました。後編では、保護者自身の心の保ち方や、自分のイライラとの向き合い方、「話すこと」「聞いてもらうこと」の力についてご紹介します。後編もお楽しみに!