2026年5月30日 講演会「ひとりで抱えない不登校〜わが子に寄り添うために〜」レポート(後編)
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2026年5月30日 講演会「ひとりで抱えない不登校〜わが子に寄り添うために〜」レポート(後編)

 2026年5月30日、世田谷区教育委員会で学校支援アドバイザーを務めていらっしゃる橋本弘美先生による講演会「ひとりで抱えない不登校〜わが子に寄り添うために〜」が開催されました。

 前編では、子どもが「なぜ学校に行けないか」を言えない理由や、年齢によって支え方が変わること、そして「今目の前の子どもを見る」ことの大切さについてお伝えしました。後編では、保護者自身の心の保ち方を中心にお届けします。

 

〜こちらもあわせてお読みください〜

<★前編はこちら>

自分のイライラに「気づく」だけで、だいぶ変わる

 「不登校の子どもとずっと家にいて、ついイライラしてしまう。ものを蹴り飛ばしそうになる」——講演前に寄せられたこの質問を読み上げたとき、先生はこうおっしゃいました。「正直でいい質問ですね」と。

 イライラしない人はいません。大事なのは、イライラそのものをなくすことではなく、「あ、自分は今イライラしているな」と気づくことだと先生は言います。「気づいた段階で、かなり落ち着きます。気づかずに相手にぶつけると、全部相手が悪いになってしまう。自分の状態に気づいていられることが、すごく大切なんです」。

 同じように、「子どもの機嫌を取らされているようで疲れる」という感覚を持つ保護者の方も少なくないでしょう。先生はそういった気持ちに対して、こんな見方を教えてくれました。「子どものためにやっている、ではなく、『自分がこの選択をした』と思えると、少し変わります。この子のためにこの関わり方を今選んでいる、と主体を自分に置く。そうすると、少しだけ楽になれる」と。

 子どもに振り回されているのではなく、自分が選んでいる。その小さな認識の変化が、毎日の関わりを少し軽くしてくれることがあるのだと、先生はおっしゃっていました。

「自分の当たり前」は、子どもの当たり前じゃない

 「お母さん・お父さんの当たり前は、この子たちの当たり前じゃない」——先生がこの言葉を言ったとき、会場にいた多くの方がはっとした様子でした。

 子どもはかつて、自分の体の中にいた存在です。だからこそ、ついつい「自分の分身」のように感じてしまう。でも子どもは別の人間です。感じ方も、怖いと思うことも、楽しいと思うことも、ぜんぜん違う。

 大人になった私たちは、これまでの経験を通じて物事を理解できます。先生が言葉で話している内容が、自分の体験を通した意味ある言葉として受け取れる。でも子どもは、その年齢の発達の段階でしか理解ができない。親がどんなに丁寧に伝えようとしても、子どもにはその言葉がまだ実感として届かないことがある。それは親の伝え方の問題ではなく、子どもの発達の段階の話なのです。

 だから、「自分の当たり前を横に置いて、この子が何を伝えようとしているかに耳を傾けてほしい」と先生はおっしゃいます。何か行動を変えさせようとするよりも前に、まずその子が今何を見せてくれているのかを受け取ること。それが理解の出発点になると先生は語ります。

 

絶対に譲らないラインは、少なくていい

 子どもの行動をすべて受け止めるといっても、何でも許容する必要はありません。先生は「絶対に譲らないラインを持つことは大事」とおっしゃいます。ただし、そのラインはできるだけ少なく、大きなものだけにした方がいいと言います。

 「暴力だけは絶対に許さない」「高額な課金はできない」——そういった、本当に外せない枠は一貫して持ち続ける。でも、「毎朝おはようと言いなさい」「毎日お風呂に入りなさい」といった細かいルールを、すべて守らせようとするのは難しい。むしろそういった細かい部分は、今は手放してもいいかもしれません。

 そして先生は、枠の伝え方についてもこう言います。大切なのは、その枠がコロコロ変わらないこと。「今日はいいけど明日はダメ」という対応が続くと、子どもは何を信じればいいかわからなくなってしまう。少ない枠でいいから、一貫して伝え続けること。それが、子どもにとっての安心の土台になると先生は語ります。

 

「話すこと」「聞いてもらうこと」の力

 先生がカウンセラーとしてもっとも大切にしていること——それは「丁寧に聞くこと」だとおっしゃっていました。

 頭の中でぐるぐると思い悩んでいることも、言葉にして外に出すと、少し客観的に見えるようになる。誰かに丁寧に聞いてもらい、「そっか、そんな気持ちになっちゃったんだね」と整理してもらえると、自分でも自分の状態が見えてくる。先生はこれを「子どものモニターになる」と表現しました。

 「子どもが自分で自分のことを見られるようになるために、まず親が子どものモニターになってあげる」——これは、アドバイスや解決策を出すことではなく、今のその子の状態をそのまま言葉にして返してあげること。「今すごく嫌な気持ちなんだね」「お腹が空いてるからイライラしてるのかな」と、ただ見えているものを伝えるだけでもいい。そのことが、子どもが自分の感情に気づく力を育てていくのだと先生は言います。

 そしてそれは、保護者自身にとっても同じです。一人で抱え込まず、誰かに話す。話すことで頭の中が整理される。先生は「最近はAIに話して気持ちが楽になる方もいる」とも紹介されていました。もちろん人との対話が一番だけれど、行き詰まったとき、何かに話せる状況があること自体が大切だと言います。

 

 講演の終わりに、先生はこうおっしゃいました。「大人が安定していること、自分が揺れているときにそれに気づいていること。それが子どもにとってすごく大事な環境になる」と。

 不登校のお子さんを支える保護者のみなさんは、毎日膨大なエネルギーを使っています。答えの出ない不安を抱えながら、目の前の子どもと向き合い続けることは、本当に苦しいことです。だからこそ、自分の不安を聞いてくれる人、一緒に考えてくれる人がいることが、子どもへの関わりを続けるための土台になります。

 「自分が行き詰まったときに、誰かに相談できる状況があること。そしてそうか、こうすればいいんだって思える瞬間があること。それがすごく大事なことだと思います」と先生はおっしゃっていました。

 

 今日集まった保護者のみなさんが、この場所で少しでもそういう「仲間」に出会えていたなら、と思います。そして、一人で抱えているものが、ほんの少し軽くなっていたなら、嬉しいです。

 

 今回は、講演会での橋本弘美先生のお話のまとめ(後編)をお届けしました。前編と合わせて、ぜひお読みください。

<★前編はこちら>

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